摩天楼の怪人 著)島田荘司

今日は電車に揺られながらこの本を読了しました。毎度のことながら島田荘司さんの作品を読むときは体力を要する気がする。そんなわけで今日はこの本『摩天楼の怪人』です。


舞台はニューヨーク・マンハッタン、往年の大女優ジョディ・サリナスが死に際に明かした過去の事件。その事件を追ってコロンビア大学助教御手洗潔が推理を繰り広げる。


以下ネタばれも含む


本作の特徴は何といっても事件の舞台となるマンハッタンの高層ビル。そのビルの中で当時ブロードウェーイで活躍中であった女優やプロデューサーが謎の死を遂げていく。捜査線上にのぼった女優のジョディ・サリナスだったが彼女には崩しがたいアリバイがあった。大停電があった最中に殺されたプロデューサーはビルの一階の事務所に容疑者のサリナスは34階の部屋に、しかもエレベーターは停電で止まっており到底15分間で殺すことはできない。しかし、彼女が死に際に告白した内容は自分が彼を撃ったというものだった。このトリックがこの作品の根幹にあり、読者を悩ませることになる。

私が島田荘司氏の作品でいつも感じるのがリサーチの量の多さ、そしてそれが作品に活かされているところだ。この作品でもマンハッタンという都市、また高層ビルへの知見といったものが随所に盛り込まれている。推理物としてよりもそういったものの歴史物語を思わせる。

トリックに関してはビルの構造的な問題よりかは発明の歴史による謎の開示を感じさせられ、知らなきゃわかんねーとも感じるが、比較的若い都市であるマンハッタン、その中で競うように建造されてきた高層ビル群と電気やエレベーターといった発明の歴史を絡めた発想は相も変わらず素晴らしい。

ただ、作品に用意されたミスディレクションが放置プレーされたまま終わってしまうのでその点で物足りなさを感じさせられるかもしれない。


作品は御手洗潔のニューヨーク時代を描いた作品になるが、このシリーズを未読の方は私個人としては『斜め屋敷の謎』から読み進めることをお勧めします。


摩天楼の怪人 (創元推理文庫)

摩天楼の怪人 (創元推理文庫)